CLANNAD もうひとつの世界 智代編

住む世界の異なる二人が歩むには王道的過ぎた恋路に対する気恥ずかしさと、強く依存し合った関係から予見される破滅的な将来に対する不安が心の片隅に残らないでもないが、恋に悩む男女の心の機微を描いた映像作品として大変素晴らしかった。もし彼らの心を支配しているのが金の悩みで「明日を生きる金がない」などと独白しながら涙を流してクレープにかじりつこうものなら我々視聴者もまた痛切な面持ちで画面を見つめざるを得ないところだが、異性に対する想いの故となるとこれが、な!渚編ももちろん好きだけど、あの二人の恋仲は自他共にとんとん拍子で認められていったところがあるから、本作で見られたような葛藤は当然なかったわけで。たとえ王道であっても一度や二度の挫折が織り込まれている方が恋愛物語として魅力的であることは間違いないので、そう視点を絞れば僕は智代編の方が好きと言える。
そしてこうも本作を気に入ったもう一つの理由として、堀口悠紀子作監を手掛けていることが挙げられる。僕が堀口堀口言ってるのは、当初はただ、らき☆すたのキャラデザに典型的に表れている彼女のあのロリっぽい幼さを描く画風を評価していたからに過ぎなかったが、最近では決してそれだけでなくて。らき☆すたOVAで目にしたキャンプ話におけるみゆき、バレーボール話のつかさやかがみに非常な魅力を感じて以来、また別の観点から彼女の絵に惹かれるようになってきている。本作や先に挙げたらき☆すた各回の要所要所で僕が感じたのは「こいつってこういう表情もするんだ」ということだった。彼女の描くキャラクターは実に豊かな表情をして、時には他のアニメーターが描いた版権絵、作画監督を務めたアニメーションでは絶対しないような顔さえするんだけど、それでいてそれは、確かに彼や彼女がするだろうなと思える顔。彼女の描くキャラクターは僕らがそれまで知らなかった新しい一面を見せてくれる。だから僕は堀口悠紀子の描く絵が好きなんだ。